佐山雅弘の音楽旅日記

私用で京都へ行って、戻ってきた日が高平哲郎さんの新刊出版記念パーティ。これがめっちゃ面白かったので今回は旅帰り日記ということで……..

その本というのは高平さんと親交があって、20世紀中に亡くなった人々へのトリビュートなのだが、各章毎についてるタイトルが、ジャズのスタンダードナンバーになっていて、せっかくだからそれらの曲を順番に全部やりながら適宜挨拶やコメントをもらおうという洒落た企画だったのでR。以下、チャプターとその話の主人公、喋った出席者、演奏曲目、演奏メンバーを羅列すると……
(house band = 黒葛野敦司 sax, 佐山雅弘 pf,
小井政都志 bass, 高橋信之介 ds, house vocalist 上野尊子)

1. プロローグ/主人公なし/和田誠/memories of you/house band

2. たこ八郎/嵐山光三郎/i can’t get started/上野尊子

3. 成田三樹夫/コメントなし/little brown jug/house band

4. 久保田二郎/矢崎泰久/the five pennies/タイムファイブ

三つの違うメロディを同時に歌うこの曲は三人だけで歌われた。タイムスリーですね。矢崎さんの挨拶も久保田さんがいかに無茶な人だったかに終止して、笑いをとっていた。


5. 三木のリ平/久世光彦(テルヒコと読む由)
/after you’ve gone/上野尊子

今日のために覚えて来たという。バース(前歌)の部分は僕も初めてだったが、やっぱりいい曲だった。


6. 川谷拓三/コメントなし/when you’re smiling/house band

和田誠+村上春樹監修のportrait in jazzにはいってるアレンジでやってみた。
楽しい曲である。明るい曲である。でも妙に切なさが漂うのがジャズの不思議な魅力なのである。ただし、俺達の演奏は明るく楽しいだけだった。それでもいいのである。技で出す切なさなどなんぼのもんじゃ!なのである。


7. 小坂一也/ミッキー・カ-ティス
/take me home,country roads/house band

“ジャズバンド”でやるカントリーはさすがに無理があるのだが、パーティの性格上、原曲のムードを損なわない程度のアレンジでやると…..やっぱ中途半端でした。


8. 淀川長治/大林宣彦/ev’ry time we say goodbye/まきみちる

淀川さんにいつもリクエストされてたという大林監督のターザンソング(信之介の生アフリカンドラム付き)もよかったが、さよならをいうたびにわたしは少し死ぬ..という歌詞がみょうに沁みる歌であり、今日のパーティであります。


9. トニー谷/内藤陳/things ain’t what they used to be/house band

高平さんはジャズミュージシャン、それも大御所系の友達が多いから、エリントンのこのブルースナンバーは大ジャムセッションになるかと一週間前までは予想されてたのだが、つい先日、最も親しかったといってもいい鈴木コルゲン氏が亡くなったこともあって、プレイヤーの出席が悪く、house bandのみでのコンパクトな演奏となった。


10. 八木正生/コメントなし/there’s a small hotel/上野尊子

隠れた名スタンダードであり、尊子さんの十八番(だと僕が決めてる)。 久しぶりに一緒に演れてうれしかった。


11. 勝新太郎/不破万作/smoke gets in your eyes/雪村いづみ

雪村いづみ恐るべし!還暦超えてからハイノートが広がってる!(歌える最高音が高くなってる!)お元気なうちに共演スタンダードアルバムを作りたいもんだが、意外とオレのほうがあぶなかったりして…..


12. 野口久光/石塚克彦(ふるさとキャラバンの人)
/whispering/上柴はじめ(口笛+Pf)

スタジオプレイヤーの先輩、上柴氏によるこれは、弾き語りならぬ弾き吹きというのかなぁ。こんな裏技を持っていたとは知らなんだが、おれも今まで知らなかった。この名曲にピッタリのサウンドでありました。


13. 林家三平/海老名香葉子
/i’m getting sentimental over you/house band

ここで休憩になり、雪村さん、尊子さんらと楽屋でだべる。この、大スターと進駐軍叩き上げのお二人が年も似ていて大親友だってのが面白くもあり、ミュージシャンのいいところ、信用できるところである。そこへ村上ポンタ現れて、先輩方への挨拶もそこそこに、ハウスドラムの信之介22才を紹介されるや、“若いのに佐山なんかに気ィ使って叩いてんじゃねェよ!表にいる文化人どもがしたリ顔して酒なんて飲んでられないくらいバンバンたたいてやれ!”。僕は彼のこういうところが大好きです。

そして始まった第二部…..

14. 色川武大/菅原昭二/isn’t this a lovely day/house band

一関ベイシーの名物マスター、菅原の兄貴(ポンタの兄貴分だから正確には兄貴の兄貴か?)は喋りも絶好調だったが、**癌で片**除去したのが嘘のようにピンピンしててビックリと安心したが、一説によるとアレは片方で十分間に合うし却ってその方が活躍も活発になるとか、やれやれ…….


15. 美空ひばり/雪村いづみ/lover, come back to me/雪村いづみ

ポンタ出てきてさっきの言葉に嘘はないとばかりに、客全員が飲む手を止める圧倒的なドラミング。格好いい、しかし歌伴なんだけどなァ…..とのおいらの心配は無用でトンコさま大喜び。こうこなくっちゃいけません。


16. 中上健次/町田康/it’s been a long, long time/上野尊子

この町田康という人が当日の僕にとって一番の驚きというか、発見というか、不勉強というんだなきっと….先輩の上げ方落とし方、教養のちょっとしたこぼれかた、関西人でメッチャ賢くて、がんばってるようなところのまるで見えない、それで灘高なんてスッと入っちゃった、みたいな昔たまに見かけてたある種の典型みたいのがとうとうと語るのを見て、笑いながらもクラクラした。久しぶりに見応えのあるやつを見た感じでうれしくなった。後で聞くと、町田町蔵という名前でバンドもやっていたという。知らなんダ。up to date で見る事のできた筈のものを見落としてたことに気がついた時のなんともいえぬ悔しさをまた味わってしまった。高平氏は芥川賞なんて取るずっと以前、作家デビュー作でまいっちゃって、自分から訪ねて知り合いになってもらったそうな。 そういう、腰が低い高いというよりはそんな次元のことはすっとばしちゃってるのがあたりまえでありたいものだ。


17. 植草甚一/中平穂積/someone to watch over me/タイムファイブ

高名なジャズ写真家で名ジャズバー dug のオーナーの、若かりし新宿とニューヨークの日々にまばゆい思いをさせられながら、大好きなタイムファイブのハーモニーと一緒にできて幸せ満点である。おまけにピアノ大フィーチャーアレンジときたもんだ、こんちきしょう!どうにでもして!


18. 上月晃/コメントなし/violets for your furs/house band

マットデニスの名曲なんだけど、それ以上ニコルトレーンの名演が定番で耳についている我々メンバーには、黒葛野のその気になったプレイが大受けだったことです。


19. 渋谷森久/市村正親/when you wish upon a star/タイムファイブ

誰が何と言おうとオレにはタイムファイブがアカペラ世界一!


20. 景山民夫/小林のり一/i’ll see you in my dreams/house band

この曲も知らなかったが実にいい。いったいスタンダードってなんだろう?よく知られている曲のことのはずだが後から後からいくらでも出てくる。いちいち知ってる高平哲郎や和田誠も異常ではあるが….. “この人有名なんだよ”と紹介されることがたまにあって、“そうですか知りませんでした”とたいていは返される。ここまではまあ当たり前なんだけど、“たいていの人は知らないけど有名”….ってことは論理的には成立しないんじゃないかと常々思ってマス。    


21. 日野元彦/島健+村上ポンタ秀一(喋りの代わりにデュオでnardis)
/i didn’t know what time it was/上野尊子

いつもポンタとデュオる曲をオイラは今日はハウスバンド、島先輩はゲストということで、お勧め、お譲りしたのだが、いいプレイだっただけにやっぱりオレがやりたかった。


22. 松田優作/南伸坊/don’t fence me in/house band

第二次世界大戦の時のアメリカの戦意高揚映画のためにコールポーターの書いた珍しいカントリーナンバー。シナトラのにもたしかそんな成り立ちの映画があったけど、不思議と気にならぬ。感動巨編パールハーバーってのにはなんかひっかかるものがある。この差はなんだろう?


23. 由利徹/山本晋也/cokctails for two/house band

ベースがメロディをとるアレンジは成功したと思う。


24. 小野二郎/コメントなし
/what are you doing the rest of your life?/house band

ピアノトリオで演奏。多分、この日唯一の周りに関係なく思いを込めてできたプレイ。純粋に思いを込めるというのはどうなることかといいますと…..なんの思いもなく音に向かっている状態のことなんです。だから結婚式でもお葬式でもひいちゃうんですね。音楽の意外に冷たい一面かもしれません。


25. エピローグ/高平哲郎/thanks for the memory/house band

高平さんがさぞ胸に迫る話をするだろうと身構えていたのに、長いパーティですっかり酔っぱらって支離滅裂。そのわりには三次会、四時半まで飲んでるんだからわからない。やっぱりこの人って文化人というよりはバンドマン体質なんじゃないのかなぁ。


encore my funny valentine 雪村いづみ

いい夜でした。

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