佐山雅弘質問箱 2015年3月

kurikuri
日経新聞連載について
投稿日時:2015/03/19 15:56
私はアルトサックスを趣味で演奏している者です。3月12日の日経新聞の「ジャズのスタイル史2」を大変興味深く読みました。パーカーがⅡ-Ⅴというスタイルを編み出し(ⅤをⅡとⅤに分解)、モダンジャズが生まれたというところは驚きを持って読みました。これまでにこういう指摘を読んだことはなかったし、それほど深い考えもなしにⅡ-Ⅴを演奏しておりました。そこで質問ですが、記事の中に「アルトサックスのような単旋律楽器でも、和声進行をメロディーラインで美しく表現できるようになった」というくだりがあります。ここは最も重要な箇所を思いますが、なんとなく分かりそうでちょっと理解が難しい文章です。なんとか、かみくだいて解説していただけませんでしょうか。お願いします。
佐山雅弘
Re:日経新聞連載について
投稿日時:2015/03/24 11:55
  キーをCに設定しましょう。わかり易いから。
Dm7>G7>CMaj の進行で、“ファミレド|シラソファ|ミ”と奏でる。ファミレドシまで下降してラで上に跳躍して再びラソファミと下降する。この時点でウラ拍での跳躍(自動的にアクセントも伴う)というジャズ特有のシンコペーションが出ているのも重要だが、今は和声的な話。ファミレドがDm7の部分。シラソファがG7。CMajに落ち着くのがミの音。
このフレーズには二つの重要なポイントがある。
その① バーをまたぐ時に和音進行が著されている。
Dm7の7th“ド”がG7の3rd“シ”に移るのが丁度コードの変わる小節線をまたぐことでDm7>G7を感じる。
G7の7th“ファ”を、小節線をまたいでコードがCMajに変わる所で3rd“ミ”へつなぐ。このことことによってG7>CMajの動きを表す。
3度7度はコードの性格を表す最も重要な音(1度はルートだし、5度はマイナー・メジャー・セブンス、どれでも同じ音だから敢て入れなくても良い)だから小節の進行に応じたコード変化(これをハーモニックリズムという。重要なタームなので覚えておくと良いでしょう)の時にそれらを使うことで、単音でも和声進行を表すことができるのです。バッハの次はパーカーだったかも知れないくらいの大偉業なのです。
その② 強拍に和声音が配置されている
強拍とは4拍子の1と3だが、ここでは八分音符八つのうちの奇数番目、つまり1・2・3・4の表拍にDm7ではファとレ、G7ではシとソ(それぞれ3度とルート)CMajでの解決でミ(マイナーではなくメジャーですよ、と知らせる最も重要で効果的な長3度)が配されている。
人間の耳は強拍を以て和声を判断する特性がある。例えば・・・
G7>CMajで“ソファミレドシラソ(下降)|>ド”とすると各拍のアタマに“ソミドラ”がくる。これはC6またはAmの分散。スケールとしてはG7なのになんだか収まりが悪い。

余談:ベートーベンには意外とこれが多くてこの場合は四六の和音と云ってドミナント音の上にトニックを乗せる王道のドミナント進行でもあるのだがジャズではこれをほぼ使わなくしてⅡm7>Ⅴ7を前面に押し出す。ニューオリンズ期、スイング期にはこの四六のドミナント和音が結構使われている。こんな所にもジャズスタイルの独自の発展がある。余談終わり

ソとファの間に半音進行を入れて“ソbソファミレドシラ|ソ”とすると、拍のアタマが“ソファレシ”、と綺麗にG7の構成音が全て入る。奏でてみると実に収まりが良い。ただしこの時点で各自の好みは出るもので、こんなに収まりが良くて気持ち悪い、という感覚の持ち主もいるだろう。

という訳でまずは“ファミレド|シラソファ|ミ”を全てのⅡm7>Ⅴ7(12種類)で、できるようになることが“伊呂波のイ”なのです。
あ、その前に、4度進行の基本“ファシミラレソドファ”をスラスラ言えるようにしておくこと。正しくは“#ファシミラレソドファ”だけれども、シャープやフラットは実演の時に付ければ良いので、呪文のようにお題目のように“ファシミラレソドファ” “シミラレソドファシ” “ミラレソドファシミ” “ラレソドファシミラ” “レソドファシミラレ” “ソドファシミラレソ” “ファドファシミラレソド”(7種類)が言えるように。

この続編としてEm7>A7(b9)>Dm7>G7>CMajで“ソファミレ|#ドbシラソ|ファミレド|シラソファ|ミ”というのがある。ノンダイアトニックコードとセカンダリードミナント。ジャズ理論の花形とも言うべき二つの項目についての理解に最適なフレーズ見本がある。またいずれ。

それにしても、ピアノを弾きながらの解説ができればあっという間に腑に落ちる話のはず。いつか機会があれば良いですね。

いい質問をありがとう。日経に今連載していることもそうですが、知っていることを改めて纏めてみることで、雑然とした部屋を綺麗に片付けたような気持ちよさが残ります。

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