入れ忘れた本文

 このところ新聞取材をいくつも受けている。新作(ブリッジ)の話題もさりながら闘病生活にも皆さん興味がおありのようで面白く話がはずむ。さすが新聞記者たちは事前取材が利いていてアルバムを聞き込んでくるのは勿論、過去に渡って調べた上で彼らの観点から興味を持って取材してくれるので、僕も答えながら自分の考えや音楽について整頓させてもらうことが多い。新たな発見もいっぱい。
 さてその中で長年の付き合いの記者に「ブログを見てるけどこのところ生き死にの話ばかりだね」と指摘され、こりゃいかんと思い、幸い無事に過ごしている日常を知ってもらって皆さんにひとまずご安心願おうと思うに至りました。8月1日から京都に滞在する間、つらつらとミュージカル日記でも、と思っていたのだが案外忙しくて(宿題が多い)続くかどうかわからない。期待せずに、まずは第一話(‥で終わるかも。通常は何話か書いてストックを作ってから発表しながら書き進んで行くのだが今の所これだけでストップしている)
君の輝く夜に輝く人々
1安寿ミラ
 10年も前になるだろうか。菅野こうめい氏の誘いでミラさんショーの音楽監督を務めた。踊りがとても素敵で共演者も皆魅力的。楽しい仕事だった。稽古ピアノの小川さんという人が素晴らしくプロフェッショナルで勉強になった。「ナイト&デイの間奏は何小説ですか?」
「16ぐらい」
「…ぐらいという小節数はありません!踊るのですから」
我ながらのびのびのほほんと働いていたものである。
 神戸駅前の立派なホール。ある日の打ち上げでつらつらとピアノを弾いていると「ピアノっていうんじゃないわよね。もっと別のなにか…」とおっしゃったのに感銘を受けた。ピアニズムではなく、ピアノを手段として表現する何か大きなもの。具体的には自分でもわからないが今だにそれは目指している。そこを、というかそこのところから感じ取ってもらえたのが嬉しかったのだ
 この度の作業に入るにあたって最近のショーなどを資料で聞いたらなんと!シャンソンレパートリィがとても多くなっている。発声から使用音域まで以前と随分変わっている。とても素敵な方面に変化している。自らを乗り超えた素晴らしさとともにご自身にピタリとフィットしている。さぞかし相当な努力と自己改造、随分勉強なさったのだろうと想像しつつ、僕のシャンソン好きに火がついて大量に曲を作った。もちろん彼女の音域を把握して、なかんずく魅力的に伸びる特定音域を効果的に使いながら。こういう作業はクリエイトなのか職人仕事なのか、ま、どちらにせよ楽しくてしょうがない。そしてリハーサル。久闊を敍し、鈴木さんがチョイスして歌詞をつけた曲を歌って見てもらう。想像通り、いや予想を超えたいい曲になる…あたりが歌手の力と作曲者冥利。
“人生は風のように”“madomoiser de Paris”のムードのリフレインに挟まれて“if you love me”“Mary in fur”“padam padam”“et mant nan”などを模したタイプ違いのシャンソンを散りばめた曲に、鈴木氏の、なんと見事に物語詞を載せることか!物語にも沿い、独立した歌としても成立する、ミュージカルナンバーに必須の条件を十分に満たしている。シリーズが続き付き合いが長く深くなることの効能といえるだろう
“恋は謎めいて”の半音階メロディライン、“サムシングアバウトハー”の昭和歌謡ポップスもバラエティはありながら統一された個性は程よく残る、理想的な歌唱になっている。
演技も素晴らしく、場面に応じた発声の違い(歌に於いても)。立ち姿の凛々しさや絡みの時の色っぽさ、バンド全員、もうメロメロなんである。

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