神谷重徳の機材
2015年6月19日
神谷重徳の機材
教え:意識はデジタルを通り越す
まずは世間話。
神谷重徳さんはコンピューターミュージックの草分け的存在。切り取りようによっては冨田勲氏と並び称されても良いくらいのひとである。坂田明のWAHAHAに参加し、古澤さんとも親交の会ったことから、打ち込み・編曲その他諸々の作業を手伝わせてもらうことが多くなった。当時のスタジオ業務のように作曲・編曲・演奏・プロデュースなどとはっきり別れて作業する質のものではなく、全ての要素・ポジション、ソフトとハードが流動的に往き来する作業。これは勉強になった。ハードのことをかなり理解しつつソフト側から注文を出す、とか、実演と打ち込みを交互に繰り返すうちにアレンジ自体が収斂してゆく、とか。
意識はデジタルを通り越す、というのは神谷さん直々の教えではない。山貫(ヤマヌキ)君と言う優秀なスタッフが居て、打ち込みやアレンジのサジェスチョンその他、前述したように色んな業務・立場を行ったり来たりしつつ僕と2人で神谷さんの発注をこなしてゆく。
ファーストバイオリンに輝きを与えるフルートのユニゾンはどの程度の音量が良いか。クラリネットとファゴットで弦楽の厚みのみを加えて楽器の存在は目立たなくするにはどのような音域が良いか。などなど、オーケストレイションの基本を、バーチャルとはいえ実地で種々実験・体感したことは現在にも繋がっているだろう。その頃はやがてオーケストラと共演したり書き下ろしたりするようなことは夢にも望みにも考えてなかったが、なにかと経験は繋がっていくものである。実績に早期に結びつかない教育や学びには予想もしない果実があるものなのだ。
さて本題。
ある時リズミックな刻みを録音することになった。僕はハシリ癖があるのでステップ入力(1拍を128分割して音符に応じて数値で入力する)したところ、どうもグルーブ感が出ない。そこで上手くいくまでやり直せば良いから、ということで手弾きすると揺れる・・・位はまだ良いがやはりどうもしっくりこない。自分の弾いた音符を数値でみると、16分音符は8、8分音符は16、その三連譜は12であるべきところがそれぞれ2から3ほど短い。帳尻を合わせるためにどこかで不自然に長い音符が合理的でなく入っている。
これはショックだった。前回の川端さんの話に出て来たような出来事があり、良治朗バンドも継続していたから、絶好のチャンスだと思って修正に励む。だが、少し遅くしようとするだけで16であるべき数値が20までに伸びる。素直に演奏しているときの平均が14だったよりもズレとしては大きくなる。つまり・・・
自分のリズム感から出る音符を意識的に修正しようとすると、思ったように演奏するよりもズレが激しくなる。ということ。
山貫君によると、人間の脳は電流反応で伝達するが、電気機器はデジタル反応で伝達。そこには格段の情報伝達速度の差が横たわっている。
煎じ詰めて言うと、コツや小手先のテクニックでは良いリズムは出せないのである。リズム感に劣等感を持つ身としては絶望せざるを得ないではないか!
でもそのことで、ある種の諦めがつき、セッションにおいてリズムの出し方をひたすら丁寧に丁寧に重ねるしかないと思い直した。その頃は毎日何らかの演奏があったので、テーマを持って日々過ごすこと、それ自体は楽しいことだった。
今は少しましかなぁ。