中期的経緯 発案→中断→実現、の経緯。2017年の出来事④

 中期的経緯 発案→中断→実現、の経緯。2017年の出来事

胃癌から大腸への転移、加えて小腸への播種が発見されたのが17年5月。当面の症状は腸閉塞。入院即手術で大腸をバイパスして人工肛門。

「ちょっと考える時間をもらえますか?」

「緊急事態です。ノーチョイスです」

来週に控えた寺井バンドのツアーを終えてから、なんて言ってるとその途中で死んじゃうそうだ。播種は取りきれないので抗癌剤治療になる。これもノーチョイス(西洋医学的には)。抗がん剤の相性問題でジタバタと入退院を繰り返している12月のある日にキング森川氏の電話。

「様子はどうですか?こちらはレコーディングの体制を整えて待ってますから年があけて体調が戻ったら録りましょうね」

励ましの意味が大きかったと思う。有難いことである。人参が目の前にぶら下がるとモチベーションが上がるようで、明日をも知れぬ身ながらあれこれと楽しく想像を逞しくする。再発前に打ち合わせしていた時には今までの音楽活動を総括するような過去のオリジナル、またはスタンダードの決定版のようなアルバムを想定していたのだが、全く新しいことに挑戦してみたくなったのが不思議である。和田誠さんに聞いた話。フレッド・アステアの令嬢と話す機会があった時に晩年の名ダンサーの様子を尋ねると

「最後まで“次はどんな新しいことをしようか”と明るく考えてしました」

を思い出すのはレコーディングに入ってからだった。

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