身辺雑記7月9日

2015年7月9日
身辺雑記7月9日

 今週はリズム遍歴を一度お休みして、身辺雑記を。
学校生活:
月火は午後の2時間、水木は10時から4時まで大学に通う。たったそれだけのことなのに、ルーティンワークの恐ろしさか、一週間がとても早い。勤め人というのはこのようにあっという間に定年を迎えるのだろうか。
本田雅人のフルバンド授業の後見、池田雅明とのコンボ授業、ピアニストへの実践形訓練、などなど多岐に亘ってはいるが、やはり一番面白いのはジャズスタイル史。
様々なバンド活動を通じてバラバラに蓄積した知識や経験を、教えることになった契機に並べ直してみると空いた穴、知っていることの軽重などなど、山の稜線をたどるように歴史が俯瞰されて、それらについて喋るのを聴いてくれる人々がいる、という状況が実に楽しいのですね。
ドナルド・キーンさんのエピソードを思い出す。当時珍しかった日本文学の授業に出てみると、何百人も入る教室に学生はキーンさん一人。遠慮がちに「僕が休んで休講にした方が良いですか?」と訊ねた時の教授の答が素晴らしい。「自分の研究について発表・講義するのが私の表現であり、誇りを持てる大事な仕事だ。聞き手の数は関係ない。聞き手が一人でもいてくれれば充分コミュニケーションはなりたつ」
幸か不幸か履修生はほぼ毎回全員出席してくれていて、マイルスやブレイキーバンドの話をレコードなど回しながら、ジャズ喫茶の親父よろしく講釈を垂れている。一回のジャズ親父のとても楽しいひとときなのである。
国立音大と昭和音大のふたつでスタイル史を講釈しているのだが、国立の場合は各項目ごとに実演をしてもらう。その時代のスタイルに縛った演奏。これが楽しく、また皆うまい。
国立はジャズ科を設けているいくつもの大学の中で恐らく入試のハードルは一番高いだろう。入学者数も制限して少数精鋭を旨としている節がある。そして僕の授業を受けられるのは第3学年。この時期の二年間は半生に匹敵するくらい濃い。人間的にもある程度大人になって、技術的には磨きがかかる時期の若者たちとジャズの来し方についてあれこれゼミナールするのも楽しく有意義なことである。そう講義というよりはゼミに近い。教えるというよりは共同研究の様相。みんな詳しいし、項目によっては僕の方がが学ばせてもらうことも多い。
片や昭和音大の方は1年生の必修科目になっていて(この辺りも両校のコンセプトの違いが出ていて面白い。勿論どちらにも長所がある。)これから具体的にジャズ・ポピュラーを身につけていこうとしている未成年にジャズの百年を講義するのは、身も引き締まるがやりがいも大きい。話が奥深くなって専門用語も容赦なく飛び出して、ポカンとしてしまっている子どもたちに容赦なくピアノを聴かせ、ビルエバンスの奥義について口角泡を飛ばす、なんぞは”頑固爺の愉悦ここに極まれり”の感がある。どちらにしても理想的な教授像からはほど遠いのではあるが。

学校生活編おわり。綴って見ると面白いので次は“演奏生活”“療養生活”など試してみよう。リズム話の続きとどのように組み合わせていこうか・・・

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