前説とM2
2016年2月27日
前説とM2
はじめに:
シリーズ3作目となる本作品。僕の望むタイプを予め2曲渡した。それを鈴木さんがうまくはめ込みながら作った台本。そこに入っている他の曲を僕が後から作る。つまり、詞先と曲先を組み合わせたわけだ。
一作目は初顔合わせ、それも今までにない形のミュージカルということで、ミュージカルナンバーとして典型的ないくつかのパターンの曲を僕が作って、それを活かす形で詞をつけ、台本を書いてくれた。そして二作目は逆チャレンジ。まるっきり脚本が上がり、その指示に従って曲をつけた。出演者の音域その他の特性を十分把握した上でとりかかったこの三作目で、ロジャース&ハートのような二人三脚の共同作業が実現した訳だ。
その成果だろう。芝居のテンポ、歌のバラエティなどなど、全体的にとてもバランスのとれた楽しくて飽きない(短く感じる)良い作品になった。
以下、成り立ちやエピソードを交えながら各曲について思いつくまま書き進めよう。
M2 劇場へようこそ
僕から鈴木さんに提示した二曲のうちの一つ。
2015年の米国アカデミーショーで司会にヒュージャックマンが登場。いきなり歌い出したのだ。それが7分を超える大作。映画の素晴らしさのあれこれを盛り込んで、いかにもミュージカルらしい曲、ディズニーっぽい歌、批判的な語りを不穏な音楽に乗せて、と盛りだくさん。オリジナルでいてミュージカルへのオマージュがたっぷり詰まったオムニバス作品になっている。とても感激して友人の鳴海周平君に話した。ミュージカルの世界でコツコツ働くとても優秀な作編曲者。なにかと僕のアシスタントをしてくれているその彼が“採譜してみましょう”と譜面に起こしてくれた。分析してみると、、。
主メロが定期的に現れて楽曲のまとまりを作り、間あいだにエピソード的に挟まれる曲はバラエティに富んでいながら色んなタイプの典型を示す。
この構成を参考にして自分なりのメロディを盛りだくさんに繋げてみたのが“劇場へようこそ”。勿論最初は歌詞もタイトルもない。最初に出てくるサビに“げきじょう〜へ、ようこそ〜”という歌詞がつく所が天才ですね。冒頭のいかにも歌になりにくい所に“朝も昼も真〜夜中も(まぁ夜中も、とのダブルミーニング)”と来たのにも驚いた。
バラードの部分にはロマンティックな言葉。不穏な部分には大胆にもミュージカル否定の語り(小倉さんが実に良い味を出している)、と思ったらその人自身が突然歌い出す、という面白さ。
“魔法の杖はイマジネイション”は良いとして、“音と光テンプテイション”で字数が整わないので“音と光はTemptation”とあてたら、そこは違うと言う。テンプテイションの“プ”は僕にしたら“p”であり、子音を伴わないサイレント音、つまり音符は当てないのだが、鈴木さんは“プ”もしっかり発音することで日本的でありなおかつ耳に残る歌詞になる、と言うのだ。確信犯だったのですね。この辺のセンスが凄い。“恋と音楽”最後の歌詞“アイラブミュージカ〜ル”の時も、僕はラブの“ブ”に音符がつくのがいやで“I Love The Musical Show”と作っていったのだが“アイラブ〜”とカタカナで言う所が可愛くてフックするのだ、と言っていた。30年以上のお付き合いになる振り付けの清美さんもそちらに賛成だというので半信半疑のままそのようにしたのだったが、今や自分の中にすっかり定着しているから面白い。
”劇場へようこそ”に戻って、 “Sing and Dance!”と叫んでエンディングにするのは振り付け中に出てきた清美さんのアイデア。
言葉と音楽とダンス(振り付け)の擦り合わせ、ディスカッション、共同作業で作品がブラッシュアップしていく。とてもミュージカル的な作業。本番中も(何回やっても)楽しくてしょうがないが、作り上げる作業の楽しみ、喜びは何物にも代え難い。
台本の話。これからがもっと凄い。
なんと、この長尺の曲の冒頭部分(Aメロ)にどんどん別の歌詞を付けて、いくつものバラードにし、サビの部分にも別の歌詞を付けて恋の喜びの歌にしてきたのだ、鈴木氏は。
自分で作った曲とはいえ、こういう使われ方をするとは予想だにしなかったし、アレンジを何種類も考えるのは大変だったが、この手法はミュージカルでは伝統的とも言えるもの。観客の中に知らず知らずに浸透していって劇場を出る時に、ふと口をついて鼻歌が出て来ようものなら大成功なのである。そんなセリフをシリーズⅠで吾郎ちゃんが言ってましたね。
そのあたりの話は次回“恋してる二人は”のところで。