塩谷哲のエンジン
2015年9月10日
塩谷哲のエンジン
教え:バンドメンバー全員がエンジンなのだ。
楽屋でそれに類することを聞いたので、大学の僕のクラスに来てそういう話をしてくれないか、と頼んだ。快く引き受けてくれて、生徒たちにラテンリズムのあれこれを解説する。その中で、アメリカでの体験談として話してくれた。
しっかりしたリズムセクションに乗っかって歌ったり、弾いたりするのではないのだ。演奏者全員がリズムエンジンを持っていてグルグルと発動している。それが合わさった時にとてつもないパワーが生まれ、そうなったらもはやいつまでもそのグルーブが続く。
というのが、あちらのサルサバンドを目の当たりにしての“カルチャーショックを伴った”感想と感動だったらしい。
5人いたら5気筒の、7人いたら7気筒のエンジンでブンブンと車を走らせるわけだ。大変納得する話。
何時の頃からか親しくなった塩谷哲はもうデラルスを抜けてソロになっていた。沼沢尚が共通の友人であったようにも思う。岩崎宏美さんのストリングスアレンジを彼が書いて僕がピアノパートで参加する、ということもあった。とても良いハーモニーセンスと着実な書法に感じ入ったものだ。
ミューザ川崎シンフォニーホールのオープンに合わせてなにか打ち上げ花火的な企画を、ということでジャズピアノ6連弾を立ち上げた。といってもたった一度のお祭り騒ぎ、のつもり。山下洋輔・島健・佐山雅弘・国府弘子・小原隆・塩谷哲というラインナップ。年齢の幅や音楽性もあるが全く未知のことなので話がスムースに進むメンバリングを心がけた。大当たり。
僕がラプソディ・イン・ブルーをアレンジし、島さんがピアソラトリビュートの組曲を作り、山下さんがオリジナルを提供したりする中、ソルトにはラベルの“ボレロ”の編曲をお願いした。出来上がった譜面の扉には6台の配置が絵図面になっていて、クラシックホールでの生音に対応するステレオ効果まで編曲に含まれているのだった。才人である。内容も勿論素晴らしく、オケにも負けないダイナミクスや色彩感、ジャズマンの集まりならではの即興性も取り入れた前代未聞の仕上がりになった。その後も主要なレパートリィになっている。
僕の書いたラプソディ・イン・ブルーにソルトのフリーパートがあるのだが毎回凄みのある美しさ。リハモニゼイションが毎回何とも言えず不可思議な美しさと展開を魅せる。自称“前世はパリジャン”らしくフランス和声の極み、のように聴こえるのだが本人曰くは、必死にその時に見つけながら弾いているだけ、とのことだから一層恐ろしい気がする。
何かの出版物に出ていたバッハ、インベンションⅠ番のウルトラアレンジにもひっくり返ったが、6連弾の公演中、ソロコーナーでスティービーの“スーパースティション”を7拍子で展開したのには改めて驚いた。ファンクっぽさを残しながらソロパートまで完璧に構築されている。
リズムコンシャスという言い方がある。小曽根真氏の発言から、言い得て妙だと思い、使わせてもらっている。ジャズはハーモニーにせよメロディ(アドリブ)にせよリズムを伴って初めて成立するのだ。
リズムコンシャスでありながらフランス和声(風?)を自在にアドリブ展開する才能と知性は希有のものだ。機会があるたびに楽しみたい。